転造とは、写真左端のようなただの丸い棒の金属を、ギザギザの硬いダイスと呼ばれる工具に挟んでごろごろと転がしていくと、右端のような螺旋形状になってしまう!という金属加工方法です。
切粉も出ないし、加工時間もあっという間!という実にECOな加工方法です。
ナナメから見るとこんな感じです。
ギザギザが食い込みながら、山が盛り上がっていく様が観察できます。
両端を並べてみると、こんな感じになります。
外径が太くなっているのが分かりますか?
ダイスの食い込みによって追いやられた肉が盛り上がって山になるので、元の外径よりも太くなります。
これは材料費の節約にもなって、ますますECOですね。
転造と言えば、こんなネジを思い浮かべる人が多いと思います。
そうです、ネジはほとんど転造で製作されています。
なにしろ転造は、加工が速い、コストが安い、品質が良い(うまい)、ですからね。
それに、ネジの場合は規格がしっかりできていて、右ねじれ1条、山の角度は60度、外径が決まればピッチも決まる、といった具合に転造するためのダイスも標準品が準備されています。
それで、使用者が試行錯誤するのは材質選定と転造下径をどの程度にするのか、と言ったことくらいで済んでしまいます。
しかし、転造で出来るのはネジだけではありません。
このページの実施例で示しているのは、見た目はネジとほとんど変わりませんが、
モジュール0.8
圧力角20度
右ねじれ2条
のウォームギヤ、つまり歯車の仲間です。
この歯車を転造する場合は、ネジを転造する場合とは事情が変わってきます。
相手歯車との位置関係によって、外径を変化させたい。
減速比を変えたいので、条数を変えたい。
ねじれの向きが逆のものが欲しい。
といった具合に、設計段階では仕様が定まらず、いろいろと試行錯誤が必要になってくるのです。
写真の転造品は、モジュール0.8圧力角20度という仕様は固定ですが、外径、条数、左右ねじれを様々に変化させたものです。
モーターを使って物を動かす場合、回転軸の向きを変えたり減速を行ったりとギヤの出番は多いものです。
特に大きな減速を行って、小さなモーターで大きなトルクを発生させるためにウォームギヤはよく使われます。
樹脂製も多く見られますが、過重のかかる部分は金属製が使われます。
転造加工は切りくずが出ず、完成品の外径よりも細い外径の材料で短時間で加工できるので経済的です。
また、加工面が非常になめらかで表面硬化により強度もUPしますし、真円度も良好なのでギヤとしての品質は高いものができます。
そして、直線運動部分に使われるリードスクリューも転造加工品です。
これら『動く部分』というのは製品自体にもちろんありますし、製造設備や評価測定機器、保全設備、空調設備、その他もろもろになくてはなりません。
つまり、製造業に関わる企業においては、転造加工は非常に重要な技術分野です。
転造加工を自社で行う場合は、幾つかの問題に直面するのは避けられません。
まず歩みの発生や曲りなどの技術的な問題、があります。
さらにコスト的な問題、も見逃せません。
転造機自体高価なものですし、転造ダイスは転造ワークに対して専用仕様であり、少しでも設計変更があれば再製作となってしまいます。
転造ダイスの製作には時間もコストもかかるので、自社で転造品を内製している会社は少なく、急ぎであれば転造部分を旋盤加工で対応したり、転造加工を得意とする専門会社に外注している場合が多いと思われます。
しかし、その転造専門会社においてさえ、転造ダイス、転造機はそれを専門に製作している企業から購入しており、自社で内製している企業はほとんど無いと言えるでしょう。
いわゆる「ギヤ」(平歯車)に関して言えば、ホブ等の歯切りがメインで行われていて、ギヤを転造で製作している事例には、ほとんどお目にかかったことがありません。
※ホブ加工品、焼結品の仕上げ転造を行っている事例は有ります。
したがって、金属加工関連企業が転造加工の知識を習得し、自社で転造ダイス製作、転造機製作、転造加工、転造品測定を行えるようになるなら、他社との違いをアピールできる強力な武器となるはずです。
転造技術の習得が事業上のプラスになると考えられる企業
☆旋盤加工を主体とする金属加工企業
転造加工部分がある製品製作にもスピーディーに対応できるようになり、営業範囲が広がり、自社製品の付加価値が高まります。
☆平面研削を主体とする金属加工企業
転造ダイス製作ができるようになり、自社ブランドの転造加工ダイスを立ち上げることができます。
☆金属加工品全般を扱う試作対応企業
従来は旋盤加工で対応していたギヤウォーム部、ネジ部等を転造で行えるようになり、自社製品の付加価値が高まります。
☆工作機械を扱う設計製作企業
転造加工専用機の製作、既存工作機への転造加工ユニットの追加工事等が行えるようになり、営業範囲が広がり、自社製品の付加価値が高まります。
① 技術情報があまりにも少ない。
私は以前転造技術を主体とする会社に勤続し、転造品の測定解析、品質確認等に10数年関わってきましたが、当然のことながら様々な問題に直面し、調べなければならない状況が多発しました。
しかし、WEB上で検索しても、図書館で文献を探しても世の中に転造についての情報があまりに少ないため、起きている現象に対しては自分なりの仮説を組み立て、検証を重ねるという方法しかありませんでした。
また、これは後日分ったことですが、現状の工業専門学校等においては転造機の実機を置いている学校は皆無であるため、実習はおろか学科でさえも転造についてはほとんど教えられていないというのが現実です。
② 初期投資、試作段階コストが非常に高価。
ねじ転造の場合は仕様がはっきりしているので、専用転造機による大量生産で安価に制作することが出来ます。
しかし、ウォームギヤ等のギヤ転造加工の場合は事情が異なります。
※転造機が高い
一般的には平ダイス転造機が使われると思われますが、自動車部品の仕様ニーズに対応するには1000万円超の転造機が必要でしょう。
※転造ダイスが高い
ダイスは転造するワークに合わせた専用設計となります。仕様にもよりますが、1組30万円前後はかかるでしょう。
※少しの仕様変更でダイスは作り直し、高価なダイスも鉄くずに
転造ダイスの溝のねじれ角度は、ワークの太さ、条数(1周当たりの溝の数)、左右ねじれの向きによって決定されます。
しかし、1回でうまくいく保証はありません。
山の盛り上がりが少なかったので少し転造母材を太くしたい、あるいは相手ギヤとの間でガタが大きく全体に太くしたい、という場合にも溝の角度は変わってきます。
溝の角度が変われば、転造ダイスは作り直しです。旧ダイスは使い物にならず鉄くずになります。
③ ワークの「歩み現象」により多くの品質不具合が生じる。
転造ワークはおとなしく転がってくれません。
転造加工途中に軸方向に動いてしまうという『歩み現象』が生じます。
転造を行う企業はこの『歩み現象』対策に苦労しているはずです。
計算による予測が立てにくいうえに、少しでも軸方向に動いてしまえば、転造必要部位以外にダイスが食い込み傷がつくことがあります。
ワークが歩むときに切りくずが生じてワーク表面に付着する場合があります。
余分な力が働きワークが曲がってしまう場合があります。
歩んだ後に元の位置に戻る際にきれいな転造面に傷がついてしまう場合があります。
この様に『歩み現象』は、様々な品質不具合を引き起こしてしまいます。
※当社の『転造加工方法』の利点
① ダイスの溝角度を自由に調整できる
溝角度の変更にもフレキシブルに対応できるため、ワークの太さの変更はおろか、条数の変更、左右ねじれの変更にさえダイスを作り直さずに対応可能です。
つまり、1組のダイスで無限大の仕様の転造に対応可能となります。
② 転造機のコンパクト化が可能
従来の平ダイス転造では、ダイスの全長の範囲内で転造が完了しなければならないため、ダイスの歯をワークに急激に食い込ませなければなりませんでした。
そのため従来の転造機には高い剛性と大きなパワーが要求されて、設備自体も大きな高価なものとなっていました。
当社の『転造加工方法』では、小さなパワーで徐々に食い込ませることが可能です。
例えば少量の試作だけ行う場合であれば、コンパクトなモーターと筐体でオリジナル小型転造機を安価に自社製作することが可能です。
③ 転造ダイスが安価
ダイス自体が単純な作りであるため、仕様が決まればワイヤーカットや平面研削盤などの汎用設備で製作可能です。
つまり、ダイスの自社内製が可能となります。
④ 『歩み現象』対策が容易
溝角度の調整ができるため、ワークへの食い込みのどの段階でどの溝角度が最適なのか試行錯誤が可能です。
解析した結果により歩み現象を生じないダイス製作が可能となります。